2004年 4 月  ●●● 外は雪でも中はほかほか 地熱の恵みのオンドルの宿 ●●●

オンドル 3月中旬、外はまだ2m以上もの雪で覆われているというのに、オンドル大部屋の中の温度計は36度を示している。中で休んでいる湯治客はパジャマや浴衣姿。冬用の格好で訪れたこちらは、じっとしているだけでたちまち汗が噴き出してきた。
 ここは鹿角市八幡平にある後生掛温泉の「湯治村」。地熱を利用した床暖房「オンドル」の湯治宿としても知られている。個室と30人前後が泊まれる大部屋三棟があるが、昔ながらの湯治場風情が感じられるのはやはり大部屋だ。
 「真冬でもここにいれば、寒さしらず。僕の一番好きな所ですね」と湯治客の上村義明さん(74)はご満悦の表情。京都からやって来たという上村さんは、足かけ50年にわたる常連客。最近は夏と冬、それぞれ最底2週間は滞在しているという。
 長屋風のこの建物は中央に幅1mほどの通路が延び、客はその両側で寝泊まりする。客一人当たりのスペースは基本的に畳約一枚分で、仕切りはない。細長い布団を敷いて横になり、起きると布団をたたんで小さな飯台を出し、食事もお茶もこの上で済ます。温泉に入る時以外の生活は全てこのスペースで過ごすので、整理整頓はもちろん、回りの人たちとの協調性も欠かせない。
 「若い人はプライバシーうんぬんとかいって敬遠しがちですが、これこそが昔ながらの湯治場なんです。みんなが家族のようなもので、食事時はあちこちからおかずが届いたりね。本当に楽しいですよ」と、上村さんは湯治村のよさを語る。「んだよー。体調はいぐなるし、なんぼ長くいでもなんも退屈しねなー。こごだば本当に天国みでなもんだなー」と、岩手県盛岡市からやってきたという女性も相づちをうつ。
 最近は県内の温泉宿からこのような自炊棟が消えつつあるが、大部屋のある自炊棟こそ温泉の原点。いつまでも守り続けて欲しいものだ。


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