2003年4月  ●●● 泥絵の具の素朴さが魅力八橋人形のおひな様 ●●●

八橋人形 今年の旧暦の桃の節句は4月4日。雪の多い秋田では3月3日がひな祭りといわれてもぴんとこない。やはり草木が芽吹き始める4月の方が桃の節句という気分がする。
 旧暦のおひな様と言えば、八橋人形を思い出す。藩政時代の安永〜天明(1772〜89)頃から伝えられている、素朴でほっとした親しみの感じられるおひな様だ。八橋人形は京都伏見の人形師が伝えたといわれる土人形で、庶民に長く愛されてきた歴史がある。
 3月中旬、八橋人形の伝統を守り続けている道川トモさんの工房を訪ねた。「おひな様は去年の12月までに仕上げて、今は4月24、25日の天神祭用に天神様を作ってるの…」と話しながら道川さんは絵筆を動かし続ける。合わせ型に粘土を詰めるのも、それを取り出して素焼きする作業も全て道川さんが1人で行っているという。
 「両親の仕事を手伝い始めたのは7歳。でもお顔を描くようになったのは40歳位から。色づかいは昔と変わってませんけど、小さな模様は私なりに少し変えてます」と道川さん。現在使っている合わせ型は、おじいさんが作ったものだという。
 庶民にも気軽に買えたというだけあって、今でも驚くほど安い。高さ30cm程のお内裏様に三人官女、五人囃子の10体セットで2万8千円也。「本当にそんな値段?」と何度も聞き直してしまったほどだ。
 明治時代まではかなりあったという人形屋さんも時代の流れと共に減り続け、終戦後は3軒に激減。そして現在は道川さんの工房ただ1軒になってしまった。
 「後継者はいないので私が最後でしょうね」
 「でも、県外に嫁いだ娘さんに女の子が生まれたから、なんて注文を貰うとうれしくて…」と明るく語る道川さんだが、内心はどうだろう。なんとか守り続ける方法はないのだろうか。


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